【離婚】その離婚ほんまに大丈夫?住宅ローンを抱えた離婚
【離婚】住宅ローンを抱えた離婚は本当に大丈夫ですか?具体的な経済的試算とリスクを解説
近年、離婚に関するご相談の中でも、特に住宅ローンが残っているご自宅に関する問題は非常に複雑で、深刻な経済的リスクを伴います。安易に別居や離婚を進めてしまうと、取り返しのつかない事態に陥る可能性があります。
今回は、実際に当事務所にご相談いただいた事例を基に、住宅ローンが残る状況での離婚や別居がもたらす経済的な影響と、そのリスクについて弁護士の視点から詳しく解説いたします。
1. 相談事例の概要と前提となる条件
ご相談いただいたのは、30歳のサラリーマンの夫Aさんです。Aさんは年収400万円のサラリーマンで、妻Bさん(29歳、派遣社員、年収250万円)と結婚3年目、1歳のお子様がいます。夫婦の貯蓄は50万円です。
大きな特徴は、結婚2年目に購入した新築一軒家です。
- 購入価格:4500万円
- ローン状況:フルローン、35年変動金利、月々約11万円返済。
Aさんは妻Bさんとの関係悪化から、別居や離婚を検討されている状況でした。
2. 離婚時の財産分与と自宅の取り扱い
離婚は婚姻の反対であり、夫婦生活を終わらせ、築いてきた財産を生産することになります。財産分与は、夫婦生活で積み上げた財産を原則として1/2ずつ分けるルールです。また、親権者を定め、監護者でない親は子の養育費を支払う義務が発生します。さらに、不貞行為などの離婚原因があれば、慰謝料が発生することもあります。
さて、ご自宅(不動産)は重要な財産ですが、ローンが残っている場合はその評価が問題となります。
【自宅の現在の価値評価】 購入時4500万円だった自宅の価値は、築3年が経過し、上物(建物)の価値は大幅に下落していると考えられます。土地は場所によりますが現状維持または若干の上昇が見込まれるものの、このケースでは、建物約1000万円、土地約2000万円で、時価合計は3000万円と推定されます。
一方、ローンはまだ支払い期間が短いため、元本があまり減っておらず、残債は約4500万円と見られます。
3. オーバーローン状態が招く問題
時価(3000万円)よりもローン残高(4500万円)が大きい状態を「オーバーローン」と呼びます。この差額1500万円が「負の財産(負債)」です。
財産分与は、プラスの財産を分ける手続きであり、マイナスの財産を分ける手続きではありません。したがって、このオーバーローン物件は財産分与の対象外となります。
結果として、ローン契約上の名義人であるAさんが、この1500万円の負債を全て抱え、引き続きローンの支払義務を負うことになります。負債を相手に分担させる(押し付ける)ことはできません。
4. 別居を選択した場合の「三重の経済的負担」
夫婦関係が悪化し、Aさん(夫)が自宅を出て別居を選択した場合、経済的な負担は極めて深刻になります。
Aさんの収入(年収400万円)から税金や社会保障費を差し引いた手取りは、月々約25万円と計算できます。この手取り収入に対し、以下の固定支出が発生します。
- 自宅のローン支払い: 月11万円(名義人であるため支払い義務は継続)
- 新居の家賃: 月約7万円(Aさんが新しく借りる住居費想定)
- 妻への婚姻費用(生活費): 月2.7万円
※婚姻費用は、夫婦が生活を維持するための費用で、収入が多い方が少ない方に離婚成立まで支払う義務があります。今回のケース(夫年収400万円、妻年収250万円、子1人)では算定表に基づき月5万2千円程度ですが、妻がローン付きの自宅に住み続ける場合、妻側の住居費(住居関連費として約2万5千円)が控除され、月約2万7千円の支払いとなります。
これらの固定支出を合計すると、月々20万7千円にもなります。
手取り25万円から20万7千円を差し引くと、残りは4万3千円。Aさんはこの4万3千円で、食費、交通費、通信費などの生活費全てを賄わなければなりません。これは、現実的に生活を維持することが「ほぼ不可能」な水準です。
5. 離婚後の経済的展望と深刻なリスク
仮に離婚が成立した場合、婚姻費用(月2.7万円)の支払いはなくなりますが、代わりにお子様の養育費の支払い義務が発生します。
今回のケースでは、養育費は月々3万2千円ほどと算定されます(妻が子を連れて行った前提)。 離婚後も、Aさんは引き続きローンの支払義務(月11万円)と養育費の支払い(月3.2万円)を負うため、毎月最低でも約14万2千円の固定支出が発生します。
Aさん単独の収入でこの支出を賄っていくことは非常に厳しく、ローンの返済が滞り、「支払い不能状態」に陥る可能性が高いです。その場合、自宅を手放し借金を清算する破産手続き、あるいは自宅を残しつつ他の借金を圧縮する再生手続きなどを検討せざるを得なくなります。
特に注意が必要なのは、養育費の支払いです。養育費は、破産手続きによっても消滅しない、子供のための強い権利で守られた費用です。もし滞納した場合、相手方からの申し立てにより、Aさんの給与が差し押さえられるリスクが発生します。
6. 結論:夫婦円満の維持が最善策
住宅ローンが残るオーバーローン状態での離婚や別居は、特に収入が多い名義人側(このケースでは夫Aさん)にとって、経済的な破綻を招きかねないほどのリスクを伴います。
今回の試算結果からもわかる通り、単独で住宅ローンと生活費、さらに婚姻費用や養育費を負担し続けることは、極めて困難です。夫婦二人の収入で生活を成り立たせてきた状況であるからこそ、安易に別居や離婚を選択するのではなく、まずは現状を把握し、夫婦円満を維持することが最善の選択であると言えるでしょう。どうしても別居や離婚を避けられない場合は、専門の弁護士にご相談の上、慎重な経済計画を立てることが不可欠です。


