【マンション】住人同士のトラブルに、理事会はどう対処すれば?弁護士解説
マンションの住人間トラブルに、理事会はどう対処すべきか?弁護士が解説する対応手順
弁護士の浜田将裕です。本日は、分譲マンションにおける住人同士のトラブル、特に騒音問題が発生した際に、管理組合の理事会がどのように適切に対応すべきかについて、弁護士の視点から詳しく解説いたします。この解説で想定する事案は、区分所有を前提とした分譲マンション(マンション)での話となります。
例えば、住人Aさんが住人Bさんの出す騒音に困っているといったトラブルが発生した場合、AさんがBさんに直接注意することもありますが、マンションの管理組合の理事会に対して対応を依頼されるケースもよくあります。この際、理事会がどのような立ち位置で、どこまで介入すべきか、その線引きを理解しておくことが非常に重要です。
1.理事会・管理組合の立ち位置:共同の利益の管理者である
まず、理事会が担う基本的な役割は「共同の利益を管理する」という点にあります。
したがって、AさんとBさんの個々人間で起きているトラブル(私的な紛争)を仲裁・調整することは、原則として管理組合の役割ではありません。この個人間のトラブルにおいては、理事会(管理組合)はあくまで「第三者」という立ち位置になります。
では、どのような場合に理事会が対応すべき「共同の利益」に関わる問題となるのでしょうか。それは、単にAさんとBさんの個人だけの問題ではなく、その騒音が廊下や他のフロア、あるいはCさん、Dさんなど複数の住人の方にまで影響を及ぼし、マンション全体の生活環境や共同の利益に影響が出ていると判断される場合です。この場合、理事会は共同の利益を守るために活動しなければならない「当事者的な存在」となります。
理事会が介入するにせよしないにせよ、常に中立かつ公平な立場で、問題が個人間のものか、共同の利益に関わるものかを見極める必要があります。
2.トラブル対応の基本:中立的な事実関係の把握
住人からトラブルの報告があった際、まず理事会が着手すべきは、問題の性質を整理することを含めた「事実関係の把握」です。
これは法律家である我々弁護士の仕事においても極めて重要なステップです。具体的には、「いつ」「誰が」「どこで」「何をした」という観点から情報を整理していく必要があります。
事実調査の際には、当事者であるAさんとBさん、そして周辺の住人(Cさん、Dさん、他のフロアの住人など)から中立公平な姿勢でヒアリングを実施します。この時、報告者であるAさんの主張だけを鵜呑みにしたり、「Bさんが一方的に悪い」と決めつけたりして、加害者・被害者という前提で調査を進めることは避けるべきです。もし一方的な決めつけを行った場合、理事会がBさんとの間で新たなトラブルを引き起こす可能性があるからです。
あくまでも中立公平なスタンスを維持し、客観的な事実の聴取に徹することが重要です。
3.専門家への相談と管理規約の確認
事実関係の調査が一通り完了した段階で、その事実関係に基づき、それが共同の利益に影響を与える事案と言えるのかどうかを判断する必要があります。この「線引き」をする上で、専門家(弁護士など)に相談することが非常に有効です。専門家からの意見を聞くことで、さらに事実調査の補足が必要な点などについてもアドバイスを得ることができます。
もし、Bさんが共同の利益を侵害している可能性が高いと判断された場合は、理事会として具体的なアクションを起こす必要があります。まず確認すべきは「管理組合の管理規約」です。管理規約には、共同の利益を侵害する者に対してどのような是正手続きが取れるか(勧告、指示、警告など)が定められています。例えば、標準管理規約には、共同の利益を侵害する人に対し、是正のために必要な勧告、指示、警告の手続きが定められています。
4.効果的な段階的対応の進め方
理事会が是正を求めるアクションを起こす際、対応の基本方針として「広くから狭く」「柔らかくから強く」という段階的なアプローチを推奨します。
第一段階(広く・柔らかく):全住民への注意喚起 まず、特定の個人を名指しせず、マンション全体の住民に対し、騒音トラブルが発生している事実を伝え、注意喚起を行います。例えば「最近、マンション内で騒音トラブルの報告がありますので、皆さん気を付けてください」という形で、宛名を特定せずに全住民宛に行います。この方法であれば、Bさんも個人攻撃と受け取ることなく、自らの行動を省みるきっかけとなり得ます。表現は、誰が読んでも不快感を抱かないよう、柔らかいものにすることが肝心です。
第二段階(絞り込み・少し厳しく):対象を限定した注意 第一段階の対応でも改善が見られない場合は、次に問題が発生しているフロアや区域に限定して注意文を送付したり、掲示したりすることを検討します。これにより、問題の所在を絞り込みます。文章の表現は、最初の段階よりも少し厳しめのものにしても良いでしょう。例えば、「前回全体に注意をしましたが改善されていません」といった内容を盛り込みます。
第三段階(狭く・強く):個人に対する警告・勧告 これらの段階的対応を経ても状況が改善しない場合、いよいよ騒音を出しているBさん個人に対して直接的な警告や勧告、指示を行います。この手続きは、標準管理規約に基づけば、理事会での決議を十分経て行われることが一般的です。
個人に直接警告する際は、Bさん側から「そんな事実はない」といった反論が出る可能性も考慮し、その反論に耐えうるレベルの資料や証拠を事前に十分に収集しておく必要があります。最終的には、理事長名義で警告書を送付します。
5.最終手段としての弁護士への依頼と裁判
理事長名義の警告によっても効果が得られない場合は、次の手段として弁護士に依頼することを検討してください。弁護士名義で警告書を作成・送付することは、事態の深刻さを相手方に伝える上で、非常に強力な抑止力(法的武器)となります。
それでもなお改善が見られない場合は、最終的な解決手段として裁判に訴えることになります。騒音トラブルやゴミ屋敷問題など、共同の利益を侵害する事案に関する裁判は、請求内容の設定や証拠の立証が非常に複雑で難易度が高い案件となります。そのため、この段階に至った場合は、個別に弁護士に相談し、具体的な戦略を立てて進めることを強く推奨いたします。
理事会としては、共同の利益を守るという責務を果たすため、常に中立公平な事実調査と、規約に基づいた段階的な対応を着実に実施していくことが求められます。


