【不動産】家賃増額請求は拒否できる?交渉・調停・訴訟の流れと借り主が注意すべきこと
家賃増額請求の法的手続きを弁護士が解説します。交渉、調停、訴訟の流れと、借り主が注意すべき点、現在の家賃の支払い義務について詳述します。
【弁護士解説】家賃増額請求を拒否できる?交渉・調停・訴訟の流れと借り主が注意すべきこと
弁護士の浜田です。今回は、不動産の賃貸借契約において、家主様から賃借人様に対してなされる「家賃増額請求」の手続きの全体像と、借り主様が特に注意すべき点についてお話ししたいと思います。
1. 家賃増額請求の法的根拠と要件
賃貸借契約は、当事者が合意した家賃で成立します。例えば、相場が10万円の物件でも、当事者の合意によって8万円で契約することは有効であり、原則として契約時の賃料が当事者を拘束します。
しかし、この家賃増額請求は、契約後に発生した事情の変動によって、当初の合意賃料が現在の状況に照らして不相当なものになった場合に認められる制度です。
法律(借地借家法)で定められている要件としては、建物の賃借に対する租税その他の負担の増減、建物の価格の上昇、経済事情の変動、近傍同種の建物の賃料と比較して不相当であるといった事情が考慮されます。これにより、「本来であればこれぐらいに上がっていないと不公平だ」という場合に増額が認められることになります。
一度決めた契約内容を覆すわけですから、増額が認められるには「相当な事情」が必要です。契約から増額請求までの期間が短いほど、その間に賃料を不相当にするほどの大きな変動が起きたとは考えにくいため、一般的には認められにくい傾向があります。
2. 増額請求から結論までの手続きの流れ
家主様が賃料増額が相当だと判断した場合、増額請求を行います。この請求が最終的に認められれば、法的には請求をした時点から賃料が増額されたと見なされます。
手続きは、基本的に以下のステップを踏みます。
① 交渉(協議)
家主様からの増額請求に対し、賃借人様は応じるか応じないか、自由に判断できます。様々な事情を考慮して応じる選択肢もありますが、納得がいかない場合は交渉が決裂します。
② 調停
交渉がまとまらなかった場合、次に法律で定められた手続きは「調停」です。家主様側から裁判所に調停の申し立てが行われます。
調停は、裁判所の調停委員の方々を交え、当事者同士が話し合いによって解決を図る手続きです。調停も話し合いであるため、賃借人様はこれに応じるかどうかの自由があります。
調停は本人(素人)で対応することも可能ですが、理詰めで主張を展開したり資料を提出したりするには、法的知識が必要となります。
期間としては、話し合いの回数によりますが、大体月1回から2ヶ月に1回程度のペースで期日が開かれます。早くても半年、長ければ1~2年かかるパターンもあります。
③ 訴訟
調停でも解決に至らない場合、訴訟手続きへと移行します。これも通常、家主様側から訴訟が提起されます。
訴訟では、裁判官が借地借家法の要件を満たしているか審理し、証拠に基づいて判断を下します。当事者の主張だけでなく、固定資産税の増減、近隣の賃料の動向、土地や建物の時価の上昇といった証拠によって裏付けを行う必要があります。
訴訟手続きで最も重要となるのが鑑定です。不動産鑑定士にその物件の適正な家賃を算定してもらう鑑定意見書が証拠として用いられます。当事者が独自に鑑定意見書を用意する場合もありますが、最終的に裁判所の名簿に登録された鑑定士が中立の立場で鑑定を行う「裁判所鑑定」が行われることもあります。
裁判所鑑定の費用は、裁判所が出すのではなく、原告(家主様)と被告(賃借人様)がその負担割合を決めます。
訴訟期間は半年以上、揉めるケースでは1年程度かかります。また、判決が出るまでにさらに2〜3ヶ月を要します。手続き全体で見ると、和解による早期解決の可能性もありますが、最後まで徹底的に争った場合、トータルで1年~2年かかる可能性もあると考えておいた方が良いでしょう。
3. 借り主様が注意すべき重要ポイント
① 結論が出るまでの家賃の支払い方
家賃増額請求があった後、最終的に判決などで適正な賃料が確定するまでの間、現在の家賃(例えば10万円)と請求額(例えば12万円)の差額(2万円)が生じます。
この間、賃借人様は現在の家賃(旧賃料)を払い続けていれば問題ありません。賃貸借契約において、家賃の支払いは本質的な内容であり、これを怠ると契約の信頼関係を損ねてしまいます。
もし、家主様が要求する増額後の賃料を支払わないからといって、現在の賃料すら支払わないでいると、それは賃料の不払い(滞納)となります。賃料の滞納は、債務不履行として契約解除のリスクに直結するため、極めて危険です。
最終的に増額が確定した場合、請求のあった時点に遡って、旧賃料と確定した賃料との差額(と利息)を家主様に精算して支払うことになります。
② 弁護士費用は請求されるか
家主様が弁護士を立てて手続きを進め、最終的に家賃の増額が認められたとしても、原則として家主様が弁護士に支払った費用が賃借人様に請求されることはありません。弁護士費用は、一部の例外を除き、各自が負担するものと定められています。
③ 家主が家賃の受領を拒否した場合の対応
家主様の中には、増額後の賃料でなければ受け取らないとして、現在の賃料(旧賃料)の受領を拒否するケースがたまにあります。
この場合、賃借人様は「受取拒否されたから払わなくていい」と考えてはいけません。現在の賃料を払う意思と準備があることを家主様にしっかりと伝え、記録に残しておくことが重要です。どうしても受け取ってもらえない場合は、法務局に家賃を供託するという手続きを取ることも有効です。いずれにせよ、賃料の不払い(滞納)状態だけは絶対に避けるように注意してください。
家賃増額請求に対しては、家主様側も訴訟や鑑定といったコストと手間がかかるため、応じないという選択肢も現実的にはあり得ます。しかし、長期化する法的手続きに不安がある場合は、専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。


